別に他の誰かにわかってもらえなくたって構わない
君が僕の本当に気づきさえすれば

何もいらないんだ。君以外は、何も。






02.THE WHEREABOUTS






「へー、ジェームズがそんなに執着するなんてよっぽど面白い奴なんだ?」
「良い女って言ってくれないかな、シリウス?」

だらだらと着替えを済ませるシリウスのネクタイを、ぐいと後ろ側に引っ張って言う。
「ぐえぇ」とはんさむもといぷれいぼーいな彼の口から奇声が発せられるけれど、そんなのは気にしない。奴にはたまにこういう仕打ちをしてやらないとすぐちゃらちゃらと調子に乗ってしまうところがある。


・・・・・・・というのは言い訳で。



「ジェームズ、大丈夫?今日、あんまり元気無いよ」
「大丈夫。気のせいだよピーター」


本当に?と見上げてくる心配そうな表情に「うん」と笑う。









思わぬことを口走った昨日。
その「昨日」のことが頭の中で渦巻いて仕方がない。お陰でリーマスとも何だか目が合わせ辛くて、微妙なぎこちなさから朝からずーっとシリウスとばかり喋っていた。

今行われているはずのレイブンクローとの合同授業は、何故かの姿を追い掛けたくなくて参加しなかった。いつもなら、友達と連れ立って早めに来るの姿を一目見ようと先に教室の後ろに陣取ったり、逆にノートの書き取りが遅くて一人残っている彼女にちょっかいを掛けたりするのに。


――――ちょっかいを掛ける、僕の場合それには語弊があるんだろうか?




本当なら今すぐにでも、あの何度指を梳かせても一度だって絡まりはしない髪をこの手で捕まえたいけれど。いつかのように、細くて折れそうな腕に抱かれた、重すぎる教科書を叩き落としてやりたいけれど。リーマスじゃなくて、僕の名前をその声で、静かに呼んでほしいけれど。

・・・・・・僕は、嫌われている?
拒絶するようにこちらを見るの目を思い出して、そうだよなーあれは、と自嘲した。リーマスと、名前がどうこうとかいう会話をしていたときの彼女の表情を思い出して、憂鬱になった。


―――『普通に接すれば、彼女あんなにフレンドリーなのにね』。
ああそうだろうね。フレンドリーだろうね。知ってるよ、ずっと見てきたから。そうさ、普通に接すれば彼女はとってもフレンドリーなんだよだけど僕は・・・・・・・・・ああ駄目だ、思考が皮肉めいてきた。







とん、と壁に背を預ける。そのままずるずると座り込んで、盛大な溜め息を吐いた。
本当なら今、懸命に魔法薬の調合法を書き写す彼女の背をじっと眺めていたはずなのに。にやにやと締まりの無い顔をして、あのシリウスにさえ小突かれたりするのに。
夕陽に照らされた中庭に面する廊下には、人一人いなくてしんとしていた。







「その瞳の色、とても綺麗」

上から言葉が降って来て、思わずがばっと仰ぎ見た。
は少し驚いたように目を丸くして僕の表情をじっと見つめると、今度は目を細める。


「そう言おうとしてたの、昨日」


隣にが立っていた。僕と同じく壁に背中を預けて、ひっそりと僕を見下ろす。僕があんまり驚いて声が出せずにいると、はゆったりとした口調で冷たく言った。


「捜したんですけど。こんなところで座り込むのやめてもらえる?見つけにくいわ」
「・・・・・・授業は?」


なるべく平静を保って問う。は浅く溜め息を吐いて、壁から身を離した。


「サボったの。リーマスが、あなたが見当たらない、って言うから」



はゆっくりと歩いて行くと、中庭を背景にしたアーチの手すりにふわりと座ってたるそうに首を傾げた。夕陽が彼女の輪郭を、茜色に染める。そして緩く眉をひそめると、呟くように言葉を零した。


「――――あなたって、私のことが嫌いなんじゃないの?」
「え?」
「昨日言いかけた2つ目がそれ」


そう言っては、迷うような表情になると右手で自分の左腕を掴んだ。正確には、セーターを掴んだというべきかも知れない。どっちにしろ僕は呆然としていて、そんな僕には戸惑ったように言葉を続けた。


「わたし、あなたがわからないわ。いつも異常に度が過ぎたちょっかいを掛けてくるのは、嫌がらせじゃなかったの?わたしが困ったりするのを、ブラックとかと面白可笑しいって笑うためにしてたんじゃないの?」
「・・・違うよ」
「そしたらいきなり自分のことが嫌いかとか聞いてくるし」
「それは」
「あなたって本当に人を困らせるのが好きなのね」
「ちょっと待」
「リーマスはリーマスで『あいつのことが嫌いなの?』とか言うし意味がわからないわ。一体何がしたいの」
「ちょっと待った!」


は僕のその声にようやく言葉を切ると、眉を寄せて僕を見た。「何なの?」という、いつもの目。
僕は立ち上がって、の座るアーチへ歩いて行く。「隣に座っても?」と訊くと、は無言で頷いた。


「度が過ぎたちょっかいっていうのはつまり」
僕は言葉を選びながら切り出す。「どうしていいかわからなかったんだよ」
「どうしていいかって?」
「だから、君に普通に接するとかそういうのはもう無理だってことさ」


は呆れたように半眼で僕を見て、「そうですか」と冷めた風に言った。





ざっと秋の強い風が吹く。
はふと目を閉じて、はぁと長く静かに溜め息を吐いた。


「ねぇ」、と僕は彼女の注意を引く。「言わせてもらうけど」
「・・・何?」
「好きだよ」

はぽかんと口を開けて、僕の顔を凝視した。

「な・・・・・・何言ってるの?」
「好きすぎて普通のちょっかいじゃ物足りない、ていうか我慢できなかったんだ。うん」


僕はリーマスの言葉も彼と話していたときのの表情を頭から追いやった。
迷うのはもうやめることにして、目の前の彼女が僕を嫌いなら別にそれでもいいと半ば投げやりに思う。




「君が好きなんだよ、




驚いて僕を見つめたままの細い肩を思い切り引き寄せて、触れるだけのキスをする。
真っ赤に染め上がるを眺めてまた、強引に唇を塞いだ。








我侭
エグザンプル

(ねぇ、いくらでも言うよ)(おかしくなりそうなくらい、君が好き)