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 ―――――そしてその出会いは、唐突にやって来た。

 がらら、と乱暴に戸が開いたかと思うと、眼鏡を掛けたくしゃくしゃな癖毛の少年と、その少年よりも更に深い黒色の髪でおそろしく端正な顔立ちをした少年がコンパートメントに入って来た。

「ここいいかな?全然空いてなくて困っててさ」
「ああ、いいわよ。どうぞ」

眼鏡の少年にリリーが頷くと、は驚きで止めていた手を何とか動かしてチェス駒を盤の上に置いた。それにセブルスが素早く反応し、ナイトを進めると「チェックメイト!」と不敵に微笑んだ。

「あ―!今よそ見してたから無し!」
「よそ見も実力の内」

ふふんと鼻で笑うと、セブルスはシートにもたれた。でもまだ100勝1敗だもんね、ともシートにもたれる。ちらりとまた視線を戻すと、眼鏡の少年が「悪いね」と言って後ろの少年に頷くところだった。そして後ろの少年がラックの上に自分と眼鏡の少年の分のトランクを杖のひと振りで乗せてしまった。

眼鏡の少年は何のためらいもなくリリーの前に座ると、「こいつらも邪魔だな」と言って「いいかな?」と一応確認を取ると、たち3人の分のトランクも上に上げた。ぴくりとセブルスの眉が動いたのを、は見逃さなかった。そうして、進行方向側の窓側から、リリー、空席。反対側は同じく窓側から、セブルス、眼鏡の少年、深い黒髪の少年、という座席になった。

「さて、僕はジェームズ・ポッター」眼鏡の少年が少し胸を張って言う。「そして彼が」、と隣の少年を指す。
「シリウス・ブラックだ」、隣の少年が続けた。
「君たちは?」
「リリー・エバンズよ」
「セブルス・スネイプだ」

「わかった、エバンズ、スネイプ、ね」

ふんふんと軽く頷くと、眼鏡の少年もといジェームズはやっと深く座り直した。

「見た感じ2人とも、僕らと同じような歳だよね。新入生?」、ジェームズがリリーとを交互に見て言った。
「ええ、そうだけど……セブルスも同じよ」
「へえ。君老けてるって言われない?スネイプ」

 ジェームズは無邪気なのか嫌味なのかわからないような言葉を口にして、セブルスをつと覗き込んだ。セブルスはそれを無視すると、身を起こし杖でチェス盤を叩いて振り出しに戻した。その様子を見つめていたジュンは、憤慨したようにジェームズに目をやる。しかし、彼はもうリリーとの会話に没頭していた。



 ―――ふ、と。くしゃくしゃの髪の向こうからこちらを見つめる、灰色の瞳に出会った。
は少し驚いて目を瞬かせる。そして彼もまたいきなり視線がぶつかったことに少なからず驚いたようだった。向かいの席で、セブルスが訝しげに顔を上げたのがわかった。しかしは少年、シリウスから目を離さない。それとも離せないのか、は自分でもわからなかった。それなのに、何故か目を離してはいけない、視線を逸らしてはいけないような、そんな―――――。

「シリウス!聞いてるのかい?」

どこか穏やかに落ち着きはじめていた灰色の瞳が、ふらりと揺れた。シリウスは隣のジェームズに顔を向けると、「え、何?」と取って付けたように尋ねた。

「寮の話だよ。スリザリンなんか誰が入るか、ってさ」

ジェームズはにやっと悪戯めいた笑みを浮かべた。

「俺の家系は全員スリザリンだった」、とシリウスは独り言のように呟く。
「君はまともに見えるけど?」、ジェームズはジョークを飛ばす前ような微笑みを浮かべた。
「それは良かった」、シリウスは表情を崩さずに言う。「俺が史上初になってやるのさ。スリザリンなんかまっぴらだ」

 はその会話を聞きながら、セブルスに目をやった。無表情を保ったまま窓の外に目をやっている。リリーはと言えば、興味もなさそうにまた教科書に目を落としていた。

「お前はどこに行きたいんだ?」、シリウスがジェームズに訪ねた。
「もちろんグリフィンドールだよ。『勇気ある者が住まう寮』!」

ふん、と窓の外に視線を固定したままセブルスが鼻で笑った。

「スネイプ、何がおかしい?」
「別に。頭脳よりも肉体派かと思ってね」
「お前はどこに行きたいんだよ?頭脳もさしてあるようには見えないけどな」、シリウスが口の端を上げて言った。

ジェームズが噴き出して、はあからさまに眉をしかめた。リリーの方を見やると、教科書を持つ手が僅かに震えていた。我慢しているようだ。はふうと息を吐いて座り直したが、次に飛んで来たジェームズの言葉に一瞬動きが止まってしまった。

「君は?リード」

いきなりピンポイントで話題を振られ、は言葉に詰まる。もう一度しようとセブルスにチェスの話題を振るために手に取った駒を、どうしようもなく手の中で転がした。

「……え、っと」
「グリフィンドール?スリザリン?それともレイブンクローかハッフルパフ?」
「うーん……」、は唇をへの字に曲げる。「どこでもいい、かな」
「どこでも?」、ジェームズがぴくりと片方の眉を上げた。
「うん、どこでも」
「どうして?」
「どうしてって……」
「この2人と同じところがいいとかさ、そういうのも無いの?」

 はまず向かいに座るセブルスを見、隣のリリーを見た。ふたりともを見つめ返してくる。寮。ふたりと同じ寮。そうなったらどれだけ楽しいだろう。……けれど、には予感があった。

「……そうだね」

 はそう言うと、曖昧に微笑った。
本当は寮なんてどこだっていい。リリーとセブルスとは、例え全員ばらばらの寮になったってずっと友達だ。ただわたしは、魔法を学びたいだけ。余計なことはいらない。自分を救ってくれたすべての人を守れるような、そんな魔法を、学びたいだけなのだ。

「僕はきっと、スリザリンだ」

 セブルスはぼそりとそう独り言のように呟いて、ポーンを動かした。ゲームの始まり。ジェームズはちらりとセブルスを見たが、もう興味を失ったらしく肩をすくめ、またリリーに何やら話を振った。は次の手を考え込む振りをして向かいを盗み見る。微かに眉を寄せ、セブルスは窓の外を見つめていた。その横顔からは、何も読み取れない。も釣られるようにして、窓の外を飛ぶように過ぎていく田園風景に目をやった。