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わたしはうっと眉間に皺を寄せた。 それもこれも耳元でひそひそと笑うリーマスのせい。こそばゆいったらありゃしないけど、身を引くのも嫌なのでそのままの姿勢で我慢する。 「ああ、君といると僕はずっと笑ってる」、リーマスは笑い泣きで現れた涙を長い指で拭った。 「さっきのは別にジョークのつもりじゃなかったんだけど」 わたしが軽く睨んでみせると、リーマスは笑いを堪えるように口を一文字にした。 「こんな時間が永遠に続けばいいのにな」 「それは無理ね」 リーマスはわたしから視線を離さないまま一文字にした唇をへの字に曲げた。 「君はそういうところがよくない」 「どうも」 「ひねくれてるよ」 「そうね」 わたしはちょっと気分が悪くなって芝生を手で押して少しお尻をずらした。木の幹がセーターの背中にずり、と擦れた音がした。それでもリーマスはわたしの肩に頭を預けたまま。さっきより距離が開いたから余計頭の重みを感じることになってしまった。 「ねぇ、怒ったの」 「知らない」 「」 「呼ばないで」 「頼むよ、」 「・・・」 「ねぇ」 しばらく無視していたら肩の重みがふと消えた。横を向いてみたけれどリーマスはいない。いつの間にいなくなったんだろう、と思うけれど、こういうことは頻繁にあるから諦めた。戻って来るのを待つ代わりに、横に置いていたポンコツのラジオを杖で叩いた。マグル界のロックバンドの、いつか聞いたことのあるメロディーがのろのろと流れ出す。ベイベーアイウォンチューイッツアマイリアルハートビート。 湖面がゆらゆらと揺らいだ。こんな時間が永遠に続けばいいのにな。ねぇリーマス、わたしもそう思う。だけどそんなこと呟いたってただの気休めにしかならないし、わたしのエゴはどうしたってふたりを繋ぎ止めておくことは出来ないんだってひねくれたことを信じてる。そうやって呟いた台詞もいつしか忘れてしまって、きっとわたしから離れていってしまうんだ、なんて。こんなわたしは、非ロマンティスト。ロマンティックな夢を見て、それが醒めた時、傷つくのが怖いだけ。 「ばぁ」 「わぁ」 「……びっくりした?」 「びっくりした」 「…………」 慎重に見上げたリーマスの表情が微妙だったので、「本当に」、と付け足した。この人はたまにこんな顔をする。子どもみたいに、すぐに顔に出る。本当にわたしが楽しんでるかって、推し量っている。そんなリーマスは繊細だ。繊細で、脆くて壊れそうで、非ロマンティストなわたしに時々がっかりしているように見える。だって彼は、優しいロマンティストだから。 浅くため息を吐いてもとの場所に腰を下ろしたリーマスが、少し満足そうな顔をしている。何なの?と聞くと、もう少しで、君が本当にびっくりするのが見られると笑った。 「何かあるの?」 「忘れてもらっては困るな。僕は仕掛け人’sの参謀だよ」、にやり。 「何か仕掛けた、の?」 わたしが言い直すと、くすりと笑った。少し悪戯っぽい、優しい微笑み。わたしは少し嬉しくなって、差し出された手をとった。彼のこの表情が好きなんだ。 と、その時。頭上でかささ、と何かが動く音がした。 「さてと」、そう軽く言うと、リーマスはズボンのポケットから杖を取り出した。「準備が出来たみたいだ」 「準備?」 「そう。見てて」 リーマスはにんまり笑うと、座ったまま持っていた杖で、ふたりがもたれている木の幹をこんこんと2回叩いた。しゅわぁ、と光の筋が上へと昇っていって、がさがさ、と木全体が細かく揺れた。そしてがさぁっと派手な音がしたかと思うと、たくさんの小鳥が飛び立った。 「うわぁ……」 思わず声を上げると、わたしは立ち上がった。鳥たちはそれぞれ、色んな色の花をくわえている。湖の上を群れになって飛んで、また戻って来る。湖面に花の色がたくさん滲んで、水彩画のようになっている。そして鳥たちがわたしのところまで来ると、リーマスはわたしの両手を掴んで前に差し出させた。そこに、抱えきれないほどたくさんの花が積まれていく。最後に少し大きな鳥が、リボンを結んだ小さな花束を置いて飛び去った。 リーマスの方を見上げると、とても優しい目が待っていた。静かなキスが降って来る。顔が離れていったと思ったら、ジェームズなんかより何億倍もくらくらするウィンクを飛ばされた。長い指が、一番上に置かれた小さな花束を摘まみ上げた。深紅のリボンに刻まれた、金色の文字。リーマスはわたしの頬に触れて、リボンも見ずにそれを暗唱した。 「“I love you, forever.”」、わたしを覗き込んだ瞳が、木漏れ日にきらりと輝いた。「プレゼントだよ。びっくりした?」 にっこり笑って放たれたその言葉に何も言えなくなって、わたしは自分の腕に抱えた山のような花の中に顔を埋めた。ロマンティック過ぎる。わたしにはロマンティック過ぎるのに、何だか自分もロマンティストになったような気がして、リーマスにまた少し近づけたような気がして、泣きそうになった。 「は?」 「……え?」 「は言ってくれないの?」 「……好、き」 「聞こえない」 「だって……」 ああ、これか。という呟きが聞こえたかと思うと、両手いっぱいの花々をわたしの腕からやすやすと引き受けて、リーマスはそれらをわさっと足元に置いた。そしてぎゅーっとわたしを抱きしめる。わたしは今度こそはっきり、好きだよ、とこぼした。耳元でくすくすと笑う声がして、またこそばくなったけれど、今度は眉を寄せなかった。何だか凄く優しい気持ちになれた。 「こんな時間が永遠に続けばいいのにな」 ふとそう呟いていた。はっと驚いたようにリーマスがわたしの顔を覗き込んだけれど、わたしが半べその顔でにっこり笑ったのを見ておんなじ顔になった。そしてもう一度わたしをぎゅーっと抱きしめて、楽しそうに口ずさむ。 イッツアマイリアルハートビート。 (あなたの魔法にかかれば、こんなわたしだってきっとロマンティスト。) |