ドリーム小説 本当はいつか、あなたの隣を一度、肩を並べて歩いてみたいと思っていた。
悲しい微笑みじゃなくて、嬉しい笑顔を見てみたいと思っていた。

いつかは叶うって、信じてもいいかな。




02:いっそナイフの瞳で刺して




リーマスの方へ歩いていきながら、そういえば、とは思った。
悪戯仕掛け人たちと一緒にいるにはいるけれど、リーマスとはあまり話したことがないな、と。
ジェームズはテンションが高いけど憎めない人だし、シリウスはむかつくけどたまに優しい良い奴。
ピーターは自分と似ているところもあって放っておけない、ペットみたいな感じ。
リーマスは、


リーマスは・・・?


「今は飛行術の授業じゃなかったっけ?」
「失敗してちょっとそこまで飛んできちゃったの」
視線を泳がせて嘘っぱちの言い訳を言うと、リーマスがくすくすと笑った。
「ばればれだよ」
は恥ずかしくなって下を向いて、ぽつりと呟いた。

「本当はね、胃の洗浄薬のにおいがきつくって・・・」

「胃の洗浄薬?」と復唱すると、リーマスは珍しく眉間に皺を寄せた。「腸ならわかるけど」
「全部吐き出させるんだって。だから『胃の洗浄薬』」
リーマスはうえ、と一瞬顔を歪ませるが、すぐにいつもの微笑みに戻ってを手招いた。
「おいで。冷たい空気を吸うと、きっと良くなるよ」



の奴、どこ行ったんだ?」
はーはーと肩で息をしながら、箒を両手に1本ずつ掴んだシリウスは廊下を乱暴に歩いていた。
かつこつと小気味良い音が、アーチ状の天井に吸い込まれていく。
「大体何で俺が探さなきゃいけねーんだよ。こういうのはリリーの仕事だろ、リリー・・・の・・・」

角を左に曲がったシリウスの視線が、その廊下の突き当たりに吸い寄せられた。
リーマスの穏やかな横顔が見える。
朝陽よりも少し昇った陽の光が、彼の顔色の悪さを払拭していた。
シリウスは一瞬、満月の夜のあの姿も、あの悲しそうな瞳も何もかも忘れてしまいそうになる。
久々に見た、本当に穏やかな表情だった。微笑みを浮かべているわけでもないのに。
それでも、心の中がそのまま顔に出たような横顔だ。

「リーマス、」少し声を大きくして呼ぶと、リーマスがこちらを向いた。「見なかったか?」
「何?」
リーマスの向こう側から現れた姿に、思わず「え?」と声が漏れる。

隣にがいた?そんな馬鹿な。

シリウスは先程のリーマスの横顔を思い出し、まさかとかぶりを振った。
横に人がいるというのに、リーマスはあんなに穏やかな瞳をしていた。
普段なら、ありえないことだ。

つかつかと近寄って、半ば強引に箒を1本押し付ける。
「お前やっぱサボってんじゃねーか。『気持ち悪い』とか言ってたくせによ」
「うるさいわね。こんなとこまで追いかけてきて、何の用?」
そう素っ気無く返してくるにむっとして、
シリウスはもう1本の箒をリーマスに渡すとの背後に廻り首に腕を回した。

「なーんーだその言い草はぁ!?」
「い、痛い痛い!ぐえぇぇぇえ」
長身のシリウスに首を絞められているは、苦しそうに声を上げる。
「せっかくこの俺が迎えに来てやったっつーのによ!謝るまで離さねぇ!」
「苦し・・・ぎぶぎぶぎぶ!」
「おりゃおりゃ謝れー!」

ばしばしとはシリウスの腕を叩くが、締め付けは一向に緩まない。
奥の手を使おうと、反動をつける為に足を前に振り上げたとき、
ゴッと鈍い音がして首からシリウスの腕がずるりと落ちていった。
「シ、シリウス?」
そろりとうしろを振り返ると、シリウスは床にしゃがんで頭の後ろを押さえていた。
「シリウス!?どうしたの!?」

シリウスは涙目でさっと顔を上げると、きっと素知らぬ顔をしているリーマスを見上げた。
「リーマス、今お前本気でやっただろ」
「何の話?」
リーマスはにっこりと笑顔を返すと、に向き直って「次の授業の用意、取りに行こうか」と言った。
は「あ、うん」と頷いて、シリウスのリーマスに殴られたらしい箇所をべし、と叩いて歩き出した。



「やりすぎちゃったかなぁ」
「そんなことないよ」
先程もう一度しゃがみ込んで呻いていたシリウスを思い出して、はぽつりと零した。
それをリーマスがやんわりと否定する。
「いつも助けたいって思ってたから、今回は出来て良かった」
「え?」とが顔を上げると、リーマスはついと瞳を逸らした。

あ、まただ、と思う。

リーマスとはいつも、目が合いそうな気がして、合わない。
視線に気付いてそちらを向くと、すいと逃げられる。
談話室でみんなで会話をしているときも、言葉を交わすことはあっても会話中一度も目線を交わすことはない。
は彼の顔を見て話しているのに、彼はいつも少し目を伏せて話す。
先程廊下で一言二言言葉を交わしていたときも、彼は一度もの方を見なかった。


はさ、」
うーんと声も出さずにしかめっ面で考え込む。
少し大きな声で「?」と声が掛けられたので、は慌てて顔を上げた。
「あ、え?うん!なぁに?」
「あ、いや・・・何考えてるのかな、と思って」
「へ、わたし?」
「うん」
「何って・・・ぉわっ!」
ごうん、と急に足場が動き、は動く階段に足をかけていたことに今気付いた。
思わずリーマスの方によろめくと、しっかりと支えられた。
「あ、ごめん!ここに来てたの気付かなかった!」
「いいよ」とリーマスが緩く首を振る。その表情はどこか寂しげだった。「行こう」

「・・・リーマス?」
「うん?」
「どうしたの?」
「何でもないよ、行こう」
「待って」
歩き出そうとするリーマスのローブを思わず掴む。
驚いた顔で振り向いたリーマスと、もろに視線がぶつかった。
そしてまたすい、とリーマスの視線が斜め下へ逃げる。

「また逸らす」

その言葉に、弾かれたようにリーマスが顔を上げた。また視線がぶつかる。
、今何て・・・」
「どうしていつも目を逸らすの?」
「っ・・・」

少し力を込めた問いに、リーマスの瞳が揺れた。

「リーマ・・・?」
「ごめん、先に行ってて」
「え、リーマス?」
「ごめん」

そう言い放つと、軽々と手すりを越える。
動く階段をいとも簡単に易々と渡り駆け下りていくリーマスの背中を、は呆然と見つめていた。






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02:あとがき

ええと、2話「いっそナイフの瞳で刺して」でした。
このタイトルはこの連載の中で一番気に入ってます。
連載を考え始めたとき、これが最初連載のタイトルでした。
でもあまりにもこの話に合ってたので、ここで使ったのであります!←
さ、テストも全部返って来たことだし連載頑張るぞー!(ぇ

[080115]