「・・・何してるの?」
「見りゃわかんだろ、ギターだよ。ギターの練習」


そうは答えたものの、ぶちぶちと何かを呟くとシリウスはいきなり「ぶわぁ」と大声で喚いた。
ソファに座っている体勢から、ギターを抱き抱えたまま横になる。
・・・ああ、もう飽きたんだな。そう思いつつ、そのソファの背にもたれる。



「あの子がギター好き、とか?」



なるべく声が震えないように頑張ったけれど、うまくいったかどうか自信がない。
ソファの背に預けているのは腰だから、シリウスの顔も見えない。
それが何故かもっと、こわい。



案の定「ああ」と、さも当たり前だろうと言うかの様な答えが届いて、
ふうん、と気のない返事を返すけれど。
内心どろりとしたものが渦巻いて、無表情を保つのが大変だった。




そういえばギターなんてどこから持って来たんだろう、と首を傾げると、
でもシリウスって音痴じゃなかったっけ?と何気に(まぁ真実だけど)失礼な言葉が聞こえて、
リーマスがレディを潜り抜けて談話室に入って来た。


「うるせぇ。いいんだよ別にこういうのは・・・」
「愛があれば?」と付け足すわたし。
するとシリウスは一瞬微妙な顔をして、「そう、愛があれば」と言った。
「あるの?愛」
リーマスがにっこりと、でも何だかひやりとしそうな笑顔で問う。
「あるさ」
「うげえぇぇぇ」
「・・・、お前な」


シリウスは噛み付くようにわたしの名前を呼んだ。
でもその瞳はすい、と逃げるように暖炉の上方に吸い寄せられる。
そこに掛けられた大きな時計は、午後8時32分を指していた。


「やべ、もうこんな時間か」



ギターを放り出しがばっと起き上がったシリウスは、
自分が下敷きにしてくちゃくちゃになっていたローブを、適当に伸ばして羽織った。
急ぐ背中を、他人事のように見送るわたし。









「こんな時間から会いに行くなんて、相当な入れ込み様ね」

シリウスが談話室から立ち去ってすぐ、ぼうっと呆けていたところへ声が届いた。
見上げると、皮肉めいた口調とは打って変わって悲しそうな顔をしたリリーが女子寮の階段の前に立っていた。
リーマスが苦笑してソファから立ち上がり、ソファの裏側のわたしを覗き込む。


「そんなところに座り込んでたら風邪引くよ、


足の力なんてとっくに抜けてしまった。
わたしが何も答えず立ち上がらないでいると、リリーが歩いて来てわたしの前に立った。


「ね、。リーマスに紅茶を淹れてもらいましょう。チェスでもしながら飲むのがいいわね」



じゃあクッキーも付けようか、と優しく言って、
リーマスは紅茶を淹れに行ったみたいだった。






リリーがわたしの前にしゃがみ込む。
ぽんぽんと頭を撫でられて、
わたしはソファの背もたれの硬い硬い裏側に背を預けたまま、深く深く俯いた。






one,
(あなたにはわたしのことなど見えてはいない)(とっくにわかってるのに、そんなこと)



[080120]