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字幕のいらない恋なので 「俺、お前死ぬほど嫌い」 シリウスがそう吐き捨てたのは、夕陽が談話室にかかる獅子の旗を絶妙に輝かせた瞬間だった。それを背景に俯いた彼を見て、わたしは一瞬映画のワンシーンを観たような気がした。親友たちの彼を非難する喧噪に巻かれて、彼の鴉の羽のように濡れる黒髪が舞い出てゆく後ろ姿を眺めながら、あのひとは死ぬほど好きだという顔をして何を言うのだろうと思った。 1の孤独は彼の心を10えぐる。彼の心をえぐる10の孤独は、わたしの心を100えぐる。それを知らないで、彼はいつもわたしを縋るような眼で見て、抱き締められるのを待っている。飄々とした仮面の奥で、わたしに言葉には出来ないものを求めている。誰にも見せない、わたしにしか見せない、夢を。 「死ぬほど、何て?」 見つけたのはフクロウ小屋の階段だった。わたしはうなだれた背中を見下ろして、すこし息切れた声で訊いた。シリウスは黙って体を片側へ寄せた。その隣に座って、夕時の空を見上げてみた。何だかスクリーンの向こう側にあるようで、近くて遠い。嫌いと囁く彼の声も、やっぱり近くて遠い。 「わかった」 わたしは短く答えて、立ち上がろうとした。けれど、思った通り元の場所に座っていた。乱暴に引き寄せられて、陽だまりのにおいがする柔らかな髪に埋もれて、目を閉じた。彼の首筋に押し当てられた耳に、その鼓動が猫の心臓のようなテンポで脈打つのが聞こえる。シリウスの長い指が、マグル学の教室の机を叩く音に似てる。優しくて、暖かくて、静かな音。内を流れる激しい血潮をひたかくした、しなやかな細胞たちを想像する。それは熱い烈情を秘めた、彼自身にそっくりだ。 「わかってるくせに」、シリウスが恨めしそうに呟いた。 「わかってるよ」、わたしはふとおかしくなって笑った。 「……」 「でもね、シリウス。ああやって言うと、みんなシリウスのこと誤解するよ」 「別にいい」、彼は言った。「お前にさえわかれば、それでいい」 抱きすくめられていた肩を解放されて、体を起こした。不安そうに覗き込んでくる彼の眼は、やっぱり縋るように揺れている。こうやって彼と見つめ合う度、わたしは思うのだ。人は誰もが映画の主人公で、その人を中心に息づいている。みんな自分という映画に字幕をつけて、無意識に誰かに見られることを待っている。けれど、わたしたちの場合、映画の主人公はふたりで、字幕なんてついていない。誰にも見られなくていい。私たちだけが知っている、スクリーンの向こうの、夢の中で。わたしとシリウスは、息づくのだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき ということで、久々の更新、久々のシリウスです。 タイトルはキンモクセイが泣いた夜様から。(リンクはTopにございます) お題から連想して書くのは初めてだったのですが、 色々ともうs、げふん。想像が膨らんで楽しかったです。 |