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永訣を忘れることなど到底不可能で、きっとあなたはそれを知っているはずだった。わたしの涙が悲しいと言ったし、眉を寄せて困ったように抱きしめたりした。わたしのつらい顔が見たくないから、もし自分が何か気に障ることをしたらどうにでもしてくれととんちんかんな言葉でわたしを苦笑させたりもした。そんなあなたが愛しかった。わたしたちが離れ離れになるのは、わたしの気持ちが自分から離れてしまったときだけだと、あなたはそう信じていた。わたしはその逆を信じていた。死がふたりを別つだなんて、これっぽっちも考えていなかった。 宵星のドロップ・ダウン 「なぁ」 「はい」 「なぁってば」 「はいはい」 軽く流すような相槌を打ってソファに座ると、隣から即座に腕が伸びてきてしっかりと肩を抱かれた。それどころか前にも長い腕がにゅっと伸びて来て、横から完全に抱きしめられた。ふわふわと鴉の羽のような髪が頬にくすぐったい。抱きしめてきた当人はと言えば、わたしの肩に顔を埋めてくぐもった声でんーとかうーとか呻いている。 ……何か、おねむの子どもみたい。 「ね、本が読みにくいよ」 「今要るの、それ。いらねーじゃん」 「要るんだよ」 眉間に皺を寄せて両腕を上げると、その手に持っていた本をぱっと横取りされた。隣を睨むと、彼は本を掴んだ腕を伸ばしたまま、してやったり顔で上目遣いにわたしを見ていた。 「いらねーって。な?」 わたしは仕方なしにそうだね、と言って体の力を抜いた。彼は本を自分の横にぽいっと放って、またさっきの態勢に戻る。その一連の出来事を眺めていたジェームズが、可笑しそうにくすくすと笑った。リリーも笑いだしそうな目でわたしたちふたりを観察している。そんな彼女も、向かいのソファでジェームズの腕の中だ。 「、もう君ってシリウスの妻みたいだよ」 「はぁ」 「ていうかもう君たち熟年夫婦だよね。『なぁ』で話が通じるなんてさ。ね、リリー」 「そうね」 「ちょっともう、ふたりとも」 照れ隠しで苦笑した。「照れなくていいよ、」とジェームズが茶々を入れる。リリーが悠々とジェームズの腕をどかして、ローテーブルの大皿に山盛りになったクッキーを摘まむ。それを横からぱくりとやらかしたジェームズは、リリーの細い指によって頬が2倍くらい横に伸びた。……こんな顔の魚、いたよなぁ。 そこで沈黙を破っていた奴が、いきなり口を開いた。 「ちょっと待て」 「何よ」、わたしはすこし警戒する。 「おいジェームズ。熟年て何だ熟年て。失礼な」 「……ちょ、」 「……俺とは熟年じゃねぇ」 「シリウ」 「熟年じゃねぇよ、俺たちは永遠の新婚だ!」、彼はわたしの手をしかと握ってがばっと立ち上がり、そう叫んだ。 噴き出したジェームズに至極真面目な顔でとうとうといかに自分たちが仲睦まじく若々しくいつまでも色褪せることのない愛を育んでいるかを述べだした彼に片手を束縛されたまま、わたしは顔を真っ赤にして俯いた。ああ恥ずかしい。ちらと見上げると、くすくすと笑っていたリリーが、わたしの顔を見てシリウスってば、と少し呆れた目でにっこりした。わたしはまた何ともいえない恥ずかしさに襲われたけれど、力説する彼にぶんぶんと腕を振られたまま、この暖かな幸せに身を浸していた。永遠に続くような、陽だまりの時間に。 永訣を忘れることなど到底不可能で、きっとあなたはそれを知っているはずだった。……ねぇ、シリウス。あなたはわたしの涙が悲しいと言ったし、眉を寄せて困ったように抱きしめたりした。わたしのつらい顔が見たくないから、もし自分が何か気に障ることをしたらどうにでもしてくれととんちんかんな言葉でわたしを苦笑させたりもした。シリウス、そんなあなたが、わたしは大好きだった。愛しかった。わたしたちが離れ離れになるのは、わたしの気持ちが自分から離れてしまったときだけだと、あなたはそう言った。わたしはその逆を、恐れていたの。死がふたりを別つことなんて、ふたりともが、これっぽっちも考えていなかった。ふたりともが―――お互いのこころが離れない限り、自分たちは、死ぬときも。手を繋いでいるものだと、信じて、いた。 ―――永劫続く、追憶の旅。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき 前回に引き続き、シリウスです。 だいぶ前に書いていたものを引っ張り出して来て手を加えました。 何か自分でも読んでいて色々想像しちゃって泣きそうです← シリウスって好きなキャラとは別で何か特別なんですよね。 ずっと忘れない気がするなぁ。 |