ドリーム小説
どうして月は満ちるのか
どうして時は過ぎるのか
どうしてわたしはあなたに出会ってしまったのか
09. Only the god knows the answer.
「はい、っと・・・よし、終わり!」
「すみません、ありがとうございました」
「いいんだよ。それより、本当に診てもらわなくてもいいのかい?」
「はい、大丈夫です。慣れてますから」
慣れてる?と不思議そうに繰り返すマリアに、は慌てて「よく裸足で走り回るので」と付け足した。
ここはマリアの夫の経営する肉屋の店の奥だ。
噴水で足を洗ったあと砂浜で出会った少年に半ば強引に連れて来られ、マリアは驚きながらも迎え入れてくれた。の足を見るとうわぁと声を上げ、レジの裏から奥に引っ張り込まれたのだ。今ではの左足は、真っ白な包帯で綺麗に巻かれてある。
立ち上がったマリアの視線の先を辿ると、少年が物珍しそうにドライソーセージを摘まみ上げていた。
「随分とハンサムな子だねぇ。あんたの恋人かい?」
マリアがにやりと笑ってそう言うと、はぶんと首を振った。
「まさか!・・・砂浜で座り込んでたら、通りすがりに助けてくれたんです」
「へぇ、ラッキーだったねぇ」
色々と、とマリアが言う。そうか彼はハンサムなのか、そう形容するのかとは今更納得した。
マリアが奥から出て行ってレジの傍から「これ、触るんじゃないよ!」と言うと、少年は驚いたようにドライソーセージを取り落とした。くすくすとが笑いながら出て行くと、居心地悪そうに眉を下げる。何か犬みたい、と、そう思うとまた笑いが込み上げてきた。
「そんなにそれが珍しいなら1本あげるよ。人助けをした若者に、ご褒美だ」
「あ、マリアさん、わたしが彼へのお礼に払います」
「いいさ。仲良く半分ずつ食べりゃあいい。ね」
「・・・ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」
とマリアのやりとりをじっと見つつも黙っていた少年にさっと目配せすると、少年はぼそっと「ありがとう」と言った。マリアはあははと豪快に笑うと、少年の髪をぐしゃぐしゃと撫で、少年の艶やかな黒髪がくしゃりと乱れる。
「素直じゃないとこが、ウチの息子にそっくりだねぇ」
マリアのその言葉に、少年は何故かぎくりと眉をしかめていた。
「ねぇ」
声を掛けると、数歩前をゆっくりと歩いていた少年がふと立ち止まり、振り返る。は痛む左足を引きずっているせいで、坂を上るのに多少息を切らせていた。膝に両手を置いて俯き肩で息をするのところまで戻ってくると、少年は小さく言った。「歩きにくいなら、おぶってやってもいいけど」。
その言葉には首を振る。
「ううん、そうじゃなくて」
「歩くの早い?」
「そうじゃない」
「家の方向が違う?」
「違う」
「じゃあどこだよ」
「その『違う』じゃなくて」
「腹が減ったとか?」
「話を聞きなさい」
見上げると、少年はじっとを見ていた。
・・・・・・何この人、初めて会った気がしないんですけど。
は不思議に思ってその顔を眺める。いやぁでもこんな『ハンサム』な知り合いはいないし、この街に来てから同年代の友達を作った覚えもないし。友達。友達・・・欲しいな、同年代の友達。転入する前に、同年代との人付き合いを覚えないと。でも、取り敢えずは。
「ありがとう」
がそう言って微笑むと、少年は手にぶら下げていたパンの詰まった手提げ袋を危うく落としそうになった。何だろう。この子、握力が弱いんだろうか。自分より背が高く体格の良い少年に対してそんなことを考えたことに、またくすりと笑う。すると少年は、ふと仏頂面を作ってつっけんどんに言う。
「別に」
「どういたしましてじゃないの?」
「どういたしまして」
が噴き出すと、少年は仏頂面を少し崩して、「お前、名前何ていうの」と言った。
「ああ、だよ。あなたは?」
「あー、俺は・・・・・・・・・リウス」
「うん?」
相手の名前を聞くときは名乗ってからでしょ、と言おうと思ったが、やめた。どうやら口下手?でも砂浜で出会ったときは「馬鹿」と一発かましてくれたっけ。口下手だから、口が悪く感じるのかな。
まぁいいやと名乗ると、少年は浅く俯いて小さく名前を言ったので、よく聞こえなかった。聞き返すと、ふいと目を逸らされる。
「シリウス」
へぇと言い掛けて、ん?と首を傾げる。シリウス?
・・・・・・シリウスって!
はぱっと顔を上げて屈めていた背を伸ばすと、「本当!?」と叫んだ。
「ほ、本当だけど」
「素敵な名前だね。わたしその名前好き!」
が名前を褒めちぎると、少年・シリウスはまた浅く俯いた。少し長めの髪が風に揺れる。何か言いたそうに、長い指で軽く頭を掻いてシリウスはもごもごと小さく呟いた。
「ありが、とう」
「ここが家だから。ごめんね、荷物まで持ってもらって」
「別に。俺も家ここだし」
「え、そうなの!?」
アパートメントの前に来るとはシリウスから荷物を受け取ろうとしたが、告げられた事実に目を丸めた。全然会わなかったねと言うと、俺はたまに見掛けたぜと返って来た。そしてシリウスはアパートに入るドアを開けると、「入れよ」とを促した。
「しかも隣!?」
「いちいちうるせーよ」
「ね、こんな偶然ってあるの?」
「あるんだろ」
当然とも言えるような口調でそう言うと、シリウスはが自分の部屋の鍵を開けたのを見ると「ん」と荷物を差し出しジーンズのポケットから自分の部屋の鍵を取り出した。
「そういえばさ」、がその手元を見ながら言う。「犬飼ってるよね?」と。
シリウスははたとの顔を見て、いや、と首を振った。
「何で」
「や、引っ越してきた日に、黒い犬が入ってくの見たから」
がそのときの様子を話すと、シリウスは軽く何度か頷いた。
んー、と少し眉を寄せると、ドアの取っ手に手を掛ける。
「・・・まぁ、たまには来るけど」
「友達なの?」
「友達・・・ま、そんな感じ。よくわかんねぇ」
がちゃりとシリウスがドアを開けたのでもう一度「本当にありがとう」と礼を言うと、「早く寝ろよ」と返事が返ってきてシリウスは中へ入ってしまった。
・・・・・・・・・・・・「早く寝ろよ」?
風邪じゃないんだから。
はまた小さく噴き出すと、がさりと音が立った手元を見やる。袋の中にはフランクが見舞いだと何個かおまけしてくれたパンと、マリアがくれたドライソーセージが丸々1本入っていた。
明日、マリアさんが言っていたように、半分に切って渡そう。
は小さく笑みを零すと、部屋へと続くクリーム色のドアを開けた。
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ストック2話という状況でupしてしまえるのはきっと、
ナチュラルハイのせい。
[080311]