「かなしいよね」


何気なく彼女が呟く一言が、僕にとってはとてもとても重要だったりする。
例えばそう、何がどうかなしいのかとか、とりあえず何かしら、その意図が気になったり。








「何がかなしいのか?」

そう言うとは、小さく小さく首を傾げた。
肩と肩はぴったりくっ付いたまま、指と指は絡まったまま。大きなブランケットが、ふたりの膝を抱いたまま。


「何がかなしいのか・・・」


僕の質問をもう一度呟いて、は今度こそうーんと思い切り首を捻る。


「今『かなしいよね』って言ったよね、
「言ったよ、リーマス」
「何が『かなしい』の?」
「うー・・・?何が。・・・・なに、が。・・・・・・そうだね、何だろう」



たっぷり時間を使って紡ぎ出される返事はいつも決まって曖昧で、僕もつられてうーんと首を傾げる。どうしてかなしい?何がどうだからかなしい?君にとっては何がかなしいのか?




窓の外では雪がしんしんと音も無く降りしきっているに違いない。
実際ソファの背に掛けられたのマフラーはべたべただし、肘掛けに放った僕のローブは裾にまだ粉雪を貼り付けてぐったりしている。


の顔を覗き込むと、まだむずかしい顔をしてうーんと唸っていた。
こっそり、その白い肌に近付いていく。は少し肩をすくめて、いつもするみたいにひっそりと瞳を閉じた。薄くて暖かな、乾いた唇。音も立てない触れるだけのキスを、僕らは静かに重ねる。




長い睫毛が揺れて、はそっと瞼を開いた。
僕は頬に擦り寄ってくる少し癖毛の髪を、本当に、愛しく撫でる。


「もしかしたら」


が囁くように口を開いた。もしかしたら。


「もしかしたら、ね」
「うん」
「同意が欲しかったのかも。リーマスの。だから『よね』って」
「そうだね」
「わたしがかなしいって思ったことを、リーマスにもかなしいって思って欲しかった、のか、な?」


じっとこちらの目を見てそう問うものだから、僕はつい目を逸らした。



「そんなこと、僕に訊かれても」
「・・・そうだよね、ごめん」








ちく、たく、ちく、たく。









「それで結局、何がかなしいって言ったかっていうと」
「うん」
「わたしとリーマスが雪だったらって考えてたら、口からはみ出ちゃったんだ」




僕は暖炉の炎を見つめていた目で、またを覗き込んだ。
は真っ直ぐ前を見つめたまま、小さく小さく唇を噛む。僕は擦り傷だらけの指で、の綺麗な涙が零れてしまわないように、そっと頬に触れた。








Hey, my love.








「ねぇ、
「ん?」
「幸せだね」



その言葉に、はふと僕を見上げる。
抱きしめたあとみたいに、はふわりとまるで春の様に笑って言った。




「そうだね、リーマス」









Please, don't cry.